電車に乗るときやコンビニで買い物をするとき、現金を使わず電子決済を利用する機会が増えています。まったく現金を使わずに1日を過ごすという方も少なくないのではないでしょうか?日本では、年々、キャッシュレス決済の利用率が高まっています。
では、海外ではキャッシュレス決済はどの程度広がっているのでしょうか。
今回は、日本と海外のキャッシュレス決済事情について詳しくご説明します。
- 日本と海外のキャッシュレス決済比率
- 日本でキャッシュレス決済の普及が遅れているのはなぜ?
- キャッシュレス決済を推進する理由は?
- 各国で流行している電子決済サービスは?
- キャッシュレス決済を利用するメリット・デメリットとは?
- まとめ
日本と海外のキャッシュレス決済比率
キャッシュレス決済比率とは、民間の支出に占めるキャッシュレス決済額の割合のことです。経済産業省では、毎年日本におけるキャッシュレス決済比率を発表しており、2023年の発表データを見ると、2010年以降日本のキャッシュレス決済比率は順調に増加していることが分かります。
2010年のキャッシュレス決済比率はわずか13.2%でした。これに対し、2023年のキャッシュレス決済比率は約3倍増の39.3%に増加しています。内訳を見ると、クレジットカードが最も多い83.5%の割合を占め、次いでコード決済が8.6%となっています。
参考:2023年のキャッシュレス決済比率を算出しました|経済産業省
日本はキャッシュレス後進国
日本のキャッシュレス決済比率は、約40%です。この数字は海外と比べて、高いと思いますか?実は、世界の主要な国々と比べると日本のキャッシュレス決済比率は決して高くはなく、日本はキャッシュレス決済の後進国だとも言われています。
一般社団法人キャッシュレス推進協議会が公表している「キャッシュレス・ロードマップ2023」には、2021年の世界主要国におけるキャッシュレス決済比率のデータが掲載されています。
このデータによると、最もキャッシュレス化が進んでいる韓国のキャッシュレス決済比率はなんと95.3%。中国は83.8%、オーストラリアが72.8%、イギリス、シンガポール、カナダもキャッシュレス比率が60%以上を超えています。
ここ数年、キャッシュレス決済を利用する人が増えたように感じますが、それでも世界に比べると、日本はまだまだキャッシュレス決済の利用が進んでいないのです。
参考:キャッシュレス・ロードマップ 2023|一般社団法人キャッシュレス推進協議会
日本でキャッシュレス決済の普及が遅れているのはなぜ?
なぜ、日本は海外に比べてキャッシュレス決済の普及が遅れているのでしょうか。電子決済の普及が進まなかった背景には、日本ならではの次のような事情が関係しています。
現金の信頼性の高さと治安の良さ
日本の紙幣にはさまざまな工夫がなされており、簡単に偽造することはできません。また、治安が良いために、現金を持ち歩くことに不安を感じることもあまりありません。
現金の信頼性の高さと、海外に比べて安全に現金を使用できる環境が、キャッシュレス決済の普及の遅れに関係していると考えられています。
ATMの利便性の高さと安い手数料
日本ではコンビニや多くの商業施設にATMが設置してあるため、銀行に足を運ばなくても24時間、いつでも手軽に現金を引き出すことができます。さらに、日本では銀行口座を保有する銀行のATMを利用すれば、営業時間内にATMの利用手数料を支払う必要がありません。また、一定の要件を満たせば、コンビニのATMを利用する際の手数料も無料になるといった特典を設けている銀行もあります。
このような、現金の引き出しやすさや手数料の安さもキャッシュレス決済の普及を妨げる要因になっていると考えられています。
借金に対する不安感の強さ
クレジットカードは利用額を締め日にまとめ、合計額を支払日に引き落とす仕組みです。決済日と支払日が異なるため、クレジットカードは借金になると捉える人も多く、借金に対する不安からキャッシュレス決済を敬遠するケースも少なくないと考えられます。
また、現金で支払う生活では、お金を使えば財布から使った分の現金は消えていきます。しかし、キャッシュレス決済では手元の現金が減ることはないため、お金を使っているという意識が低く、使いすぎてしまうのではという不安も根強いようです。
セキュリティ面に対する不安
キャッシュレス決済を利用するためには、個人情報を登録しなければなりません。また、クレジットカードの不正利用や個人情報の流出などといったニュースも後を絶たず、キャッシュレス決済のセキュリティ面に不安を抱く人も少なくありません。
事業者側が負担する手数料が高い
ここまでは、利用者側の視点からキャッシュレス決済が普及しない理由を紹介してきました。しかし、日本でのキャッシュレス決済の普及の遅れは、事業者側の問題も関係しています。
キャッシュレス決済を導入すると、事業者はクレジットカード会社や決済サービス会社に手数料を支払わなければなりません。日本における手数料率は、平均して3%程度だと言われています。キャッシュレス決済を導入すれば利用者の利便性は高まりますが、事業者の儲けは減ってしまうのです。この点もキャッシュレス決済の普及を遅らせる原因だと言えるでしょう。
キャッシュレス決済を推進する理由は?
日本政府は、キャッシュレス決済比率を2025年までに4割程度、将来的には世界最高水準の80%にまで高めるという目標を立て、キャッシュレス決済の推進に取り組んでいます。ではなぜ、国を挙げてキャッシュレス決済を推進しているのでしょうか。
日本政府がキャッシュレス決済を推進する主な理由を紹介しましょう。
参考:中間整理を踏まえ、令和3年度検討会で議論いただきたい点|経済産業省
少子高齢化に伴う労働力不足の対策
日本では、急速なスピードで少子高齢化が進んでおり、労働力不足の深刻化が懸念されています。現金決済の場合、レジには必ず担当者を置かなければなりません。しかし、キャッシュレス決済を導入すれば無人での会計が可能になり、レジの現金残高を確認する作業も軽減できます。また、キャッシュレス決済ではデジタルデータが記録されるため、売上の計算や決算処理などもスムーズに行えるようになり、従来の現金決済よりも作業負担を軽減でき、少ない人数でも対応できるようになります。
キャッシュレス決済を推進する背景には、日本の社会問題である少子高齢化が関係しているのです。
現金決済コストの削減による生産効率の向上
現金決済には、実は膨大なコストがかかっています。まず、貨幣をつくる際にコストがかかり、さらに銀行の窓口の人件費やATMの設置費用、現金の輸送費、店舗での現金管理にかかる人件費などが必要です。
「キャッシュレス・ロードマップ2022」では、現金決済インフラを維持するためには年間2.8兆円ものコストが生じているとしています。このままでは、現金決済の維持にかかるコストが経済効果を上回るリスクがあるのです。キャッシュレス決済が普及すれば、現金決済の維持にかかるコストを削減できると期待されています。
支払いデータの活用による経済の活性化
キャッシュレス決済では、利用時間や金額などの情報がデータとして残ります。また、キャッシュレス決済の種類や利用金額などの関係を分析すれば、特定のキャッシュレス決済を対象としたキャンペーンなども実施でき、売上アップの施策を実行できます。
加えて、キャッシュレス決済のデータは、在庫のチェックや発注などにも活用できます。これらの理由から、キャッシュレス決済のデジタルデータは生産性の向上と効率の良い経営を実現し、経済の活性化につながると期待されています。
訪日外国人観光客のニーズに対応
新型コロナウイルスの世界的な流行が終息し、多くの外国人観光客が日本を訪れるようになりました。キャッシュレス決済が普及している国から訪れる人は、現金を持つ習慣がないために日本円に両替する現金も少なく、観光中の支払いに不便を感じるケースがあります。事実、外国人観光客の中には少額でもキャッシュレス決済で支払いができれば、もっと買い物をしたかったという人もいるのです。
キャッシュレス決済が普及すれば、外国人観光客のニーズも満たすことができ、より経済の活性化につなげられる可能性があります。
海外のキャッシュレス決済推進の理由はさまざま
日本におけるキャッシュレス決済の推進理由を紹介しましたが、海外の国々がキャッシュレス決済を進める理由はさまざまです。
例えば、スウェーデンでは冬の現金輸送の困難さや金融機関などでの現金強盗事件の多さがキャッシュレス決済の推進につながったと考えられています。また、韓国では脱税防止や消費の活性化、中国では偽札問題や脱税問題などがキャッシュレス決済の推進に関わっているようです。
各国で流行している電子決済サービスは?
世界のさまざまな国でキャッシュレス決済が導入されていますが、国によって利用が多い電子決済サービスは異なります。各国の電子決済サービスの利用状況を紹介しましょう。
日本
まず、日本の2023年のキャッシュレス決済比率は39.3%です。クレジットカード決済が80%超を占めますが、コード決済も2019年から急激に利用が伸びており、その割合も8.6%となっています。
中国
中国の2021年のキャッシュレス決済比率は83.8%。中国では実店舗においてもオンラインにおいても、Alipay(支付宝)とWechat Pay(微信支付)といったQRコード決済が主流となっています。
韓国
2021年のキャッシュレス決済比率は95.3%です。韓国では、政府によるクレジット利用促進策が実施され、クレジットカードの利用率が高くなっています。また、硬貨の発行枚数の削減に向けた電子マネーの活用も進められています。
カナダ
カナダの2021年のキャッシュレス決済比率は63.6%です。カナダでは、クレジットカードやデビットカードを利用するケースが多くなっていますが、スマートフォンを使った電子決済も増加傾向にあります。
シンガポール
シンガポールでは、クレジットカードとデビットカードの利用率が高くなっています。2021年のキャッシュレス決済比率は63.8%ですが、さらにキャッシュレス決済比率を高めようと、シンガポール政府はQRコードの統一規格を導入しており、今後はさらに電子決済が普及すると考えられています。
オーストラリア
2021年のオーストラリアのキャッシュレス決済比率は72.8%です。オーストラリアでは、デビットカードとクレジットカードの利用率が高くなっています。
スウェーデン
スウェーデンでは、デビットカードの利用率が非常に高くなっており、2021年のキャッシュレス決済比率は46.6%です。また、スウェーデン国立銀行と大手銀行が共同で開発したスマホアプリ「Swish」の利用が浸透しており、スマートフォン決済の利用も進んでいます。
アメリカ
2021年のアメリカのキャッシュレス決済比率は53.2%であり、クレジットカードとデビットカードの利用率が高くなっています。一方で、実店舗でのスマートフォン決済はそれほど普及しておらず、現在も現金や小切手を利用するケースが少なくありません。
キャッシュレス決済を利用するメリット・デメリットとは?
世界各国で利用が推進されている電子決済ですが、キャッシュレス決済の利用にはメリットもあればデメリットもあります。キャッシュレス決済の主なメリットとデメリットを確認しておきましょう。
キャッシュレス決済のメリット
キャッシュレス決済を利用すれば、現金を持ち歩く必要がありません。財布の中身を確認しながらATMを探して現金を補充する必要もなく、スマートフォン決済を利用すれば財布を持ち歩く必要もなくなるなど、支払いが便利になります。
また、現金管理の手間が削減できるため人件費などのコストを抑えられ、さらに現金の盗難や紛失などのトラブルも軽減できるといった事業者側のメリットもあります。
キャッシュレス決済のデメリット
災害で停電が起きた場合や決済用の電子機器にトラブルが起きた場合は、キャッシュレス決済は利用できません。また、全ての店舗で電子決済を導入しているわけではなく、導入している場合でも全ての決済サービスに対応しているわけではありません。
そのため、現状ではある程度の現金も保有しておく必要があるという点は、キャッシュレス決済のデメリットだと言えます。
まとめ
日本政府は、将来的にキャッシュレス決済比率を80%にまで高める方針を打ち出しています。国がキャッシュレス決済を推進する背景には、少子高齢化による労働力不足や現金決済にかかる膨大なコストといった課題があります。キャッシュレス決済が普及すると、利用者の利便性を高めると同時に、現金管理にかかるコストや手間の削減、データの活用による効果的な販売活動の実現などによって経済効果を生み出せる可能性があるのです。
今後、日本は少子高齢化による人手不足がより深刻化すると考えられており、その対策としてキャッシュレス決済の普及はさらに加速すると考えられます。キャッシュレス決済の導入店舗が増加すれば、利用者の利便性もますます高まっていくでしょう。
※本記事の情報は2024年9月12日時点のデータに基づくものです。