
自転車は身近で便利な移動手段ですが、その手軽さとは裏腹に、交通事故や危険な運転マナーが社会問題となっています。
特に、スマホを操作しながらの「ながら運転」や、イヤホンで音楽を聴きながらの運転は、重大な事故につながる危険性が高いとして、たびたび警告されています。
こうした状況を受け、自転車の安全利用を促進し、交通事故を減少させる目的で、道路交通法が改正されることになりました。
具体的には、2024年5月24日に改正法が公布され、自転車運転中の「ながらスマホ」や「酒気帯び運転」などに関する規定が新設・明確化され、同年11月1日から施行されています。また、2026年4月1日からは、反則金(青切符)制度が導入されます。
本記事では、法改正の背景とポイント、安全利用の心構えを解説しますので、日常的に自転車を利用される方はぜひ、参考にしてください。
自転車のスマホ・イヤホン使用の罰則が強化された背景

今回の法改正による罰則強化は、自転車が絡む事故の発生状況が背景にあります。
自転車による事故が増えている
罰則強化の大きな理由は、自転車関連事故の割合が増加している点です。
警視庁が公開している東京都内における自転車の交通事故発生状況によれば、2021年に13,332件だったのが、2022年、2023年はどちらも15,000件を超えています。

引用:都内自転車の交通事故発生状況 自転車事故の推移(令和6年中)|警視庁
また、自転車が関係する死亡・重傷事故のうち、自転車側にも何らかの法令違反(信号無視、一時不停止、安全不確認など)があった割合は、高い水準で推移しています。これらのデータは、自転車利用者の交通ルール遵守が、事故防止においていかに重要かを示しています。

「ながらスマホ」「イヤホン運転」が危ない理由
自転車関連の違反行為の中でも、特に危険視されているのが「ながらスマホ」と「イヤホン運転」です。
政府が運営する情報サイト「政府広報オンライン」では、これらの行為の危険性について具体的に警告しています。
ながらスマホは、スマホの画面を注視したり、操作したりすることで、運転者の注意力が著しく低下します。周囲の歩行者や他の車両、障害物の発見が大幅に遅れるため、衝突リスクが非常に高くなり危険です。ある実験では、スマホを操作しながらの運転は、健常な状態に比べて視野が狭くなるという結果も報告されています。
イヤホン運転は、イヤホンやヘッドフォンで音楽などを聴きながら運転すると、周囲の音が聞こえにくくなる可能性があります。特に次のような緊急を要する音の認識が遅れるリスクが高まり非常に危険です。
- 救急車やパトカー、消防車などの緊急車両のサイレン
- 踏切の警報音
- 他の車両が危険を知らせるためのクラクション
- 歩行者や他の自転車からの呼びかけ
これらの音は、迫りくる危険を察知するための重要な情報源です。それが聞こえない状態での運転は、予期せぬ事故を誘発する可能性を高めてしまいます。
このように、自転車事故の増加傾向と、ながらスマホやイヤホン運転といった危険行為のまん延が、今回の法改正と罰則強化の大きな背景です。
改正されたルールのポイントとは?

今回の道路交通法改正(2024年5月公布、11月1日施行)は、自転車の安全対策を大きく前進させるものです。特に「ながらスマホ」「酒気帯び運転」そして「反則金制度の導入」が大きな柱となっています。
出典:2024年11月自転車の「ながらスマホ」が罰則強化!「酒気帯び運転」は新たに罰則対象に!|政府広報オンライン
自転車の「ながらスマホ」「酒気帯び運転」の厳罰化(改正道路交通法|令和6年11月1日施行)|東京都
「ながらスマホ」に対する罰則の強化

2024年11月から、自転車を運転している際にスマホで通話をしたり、スマホの画面を注視したりする「ながらスマホ」は道路交通法によって禁止され、罰則が強化されました。これはスマホを手に持っている場合だけでなく、自転車に取り付けたスマホの画面を注視することも禁止となります。ただし、これらは自転車が停止しているときを除きます。
改正後の罰則内容は以下のとおりです。
- 自転車運転中に「ながらスマホ」をした場合
6か月以下の拘禁刑又は10万円以下の罰金 - 自転車運転中の「ながらスマホ」により交通事故を起こすなど交通の危険を生じさせた場合
1年以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金
出典:2024年11月自転車の「ながらスマホ」が罰則強化!「酒気帯び運転」は新たに罰則対象に!|政府広報オンライン
イヤホンやヘッドフォンで「音が聞こえない状態」も罰則対象
イヤホンやヘッドフォンの使用についても、取り締まりの対象となる基準が明確化される傾向にあります。
重要なのは「安全な運転に必要な音や声が聞こえない状態」で運転することです。これは、各都道府県の公安委員会が定める「公安委員会規則」によって、すでに禁止されています。
例えば東京都の道路交通規則では「高音でカーラジオ等を聞き、またはイヤホン、ヘッドフォン等を使用してラジオを聞く等安全な運転に必要な交通に関する音または声が聞こえないような状態で車両等を運転しないこと」と定められており、これに違反すると5万円以下の罰金が科される場合があります。
「片耳なら良い」「骨伝導なら大丈夫」といった単純な区分ではなく、あくまでも「周囲の安全確認に必要な音が認識できているか」が問われることになります。
出典:自転車を安全・安心に利用するために ー自転車への交通反則通告制度(青切符)の導入ー 【自転車ルールブック】 |警察庁交通局
酒気帯び自転車運転の罰則が新設
今回の改正で、非常に大きな変更点となるのが「酒気帯び運転」に対する罰則の新設です。
これまでも、自転車の「酒酔い運転(アルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態)」は、自動車と同様に極めて重い罪とされ、厳しく禁止されていました(罰則:5年以下の懲役または100万円以下の罰金)。しかし、自動車やオートバイで規制されている「酒気帯び運転(呼気1リットル中のアルコール濃度が0.15ミリグラム以上)」に相当する基準は、自転車にはありませんでした。
今回の法改正により、この「酒気帯び運転」が自転車にも明確に禁止され、罰則(3年以下の懲役または50万円以下の罰金)が設けられます。
改正後の自転車の酒気帯び運転に関する罰則内容は以下のとおりです。
- 酒気帯び運転
3年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金 - 自転車の飲酒運転をするおそれがある者に自転車を提供し、その者が自転車の酒気帯び運転をした場合
自転車の提供者に3年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金 - 自転車の飲酒運転をするおそれがある者に酒類を提供し、その者が自転車の酒気帯び運転をした場合
酒類の提供者に2年以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金 - 自転車の運転者が酒気を帯びていることを知りながら、自転車で自分を送るよう依頼して同乗し、自転車の運転者が酒気帯び運転をした場合
同乗者に2年以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金
出典:2024年11月自転車の「ながらスマホ」が罰則強化!「酒気帯び運転」は新たに罰則対象に!|政府広報オンライン
「ビールを1杯だけ」「少し休んだから大丈夫」といった安易な考えで自転車に乗ることが、今後は重大な結果を招く可能性があるため、十分な注意が必要です。
今後予定されている「反則金制度(青切符)」の導入
今回の法改正で最大の注目点ともいえるのが、「反則金制度(通称:青切符)」の導入です。
2026年4月1日以降は、16歳以上の自転車運転者が特定の違反(信号無視、一時不停止、右側通行、ながらスマホなど110以上の違反が対象となる見込み)を行った場合、自動車と同様に反則金(青切符)が課されます。
この反則金を納付すれば刑事罰は免除されますが、納付しない場合は刑事手続きに移行する可能性があります。
そのほかの危険な運転も絶対にNG

今回の法改正で焦点となっている「ながらスマホ」や「酒気帯び運転」以外にも、自転車には危険な運転行為が数多く存在します。その多くは、青切符制度の導入を待たずとも、現行法ですでに重い罰則の対象となっています。
具体的には、信号無視、一時不停止、右側通行(逆走)などは3ヶ月以下の懲役または5万円以下の罰金です。
また、歩道は原則として歩行者優先です。自転車が通行できる歩道であっても、歩行者の通行を妨げる場合は一時停止し、歩行者がいない場合でも徐行(すぐに止まれる速度)する義務があります。これを怠ると罰則(2万円以下の罰金または科料)の対象です。これらの違反も、青切符制度が施行されれば、反則金処分の対象となると見られています。
さらに、各都道府県の公安委員会規則などで禁止されている次のような行為も、重大な事故につながる危険な運転です。
- 傘差し運転
片手運転になるため、ハンドルやブレーキの操作が不安定になります。また、傘によって視界が遮られる危険もあります(罰則:5万円以下の罰金)
- 二人乗り(幼児用座席を除く)。
運転のバランスが著しく悪くなり、転倒の危険性が高まります(罰則:2万円以下の罰金または科料)。
- 並進(「並進可」の標識がある場所を除く)
他の交通の妨げになるため、原則として禁止されています(罰則:2万円以下の罰金または科料)。
出典:2024年11月自転車の「ながらスマホ」が罰則強化!「酒気帯び運転」は新たに罰則対象に!|政府広報オンライン
これらの危険な運転が原因で歩行者などに衝突し、相手に重大な怪我や障害を負わせてしまった場合、運転者は刑事上の責任(重過失致傷罪など)だけでなく、民事上の重い賠償責任を負うことになります。
過去の判例では、自転車の運転者が数千万円から1億円近い高額な損害賠償を命じられたケースも実際に発生しています。自転車は「車両」であり、その運転には重大な責任が伴うことを、決して忘れてはなりません。
出典:自転車事故にあったら損害賠償金はいくら?実際にあった3つの事例|りそなグループ
自転車の運転で注意すべきポイントとは?

法改正や罰則の強化は、私たちに安全運転の重要性を再認識させるきっかけとなります。自転車を「車両」の運転者として利用するために、日頃から注意すべきポイントを改めて整理します。ここでは、警察庁や各都道府県の警察などが推進している「自転車安全利用五則」を見てみましょう。
- 車道が原則、左側を通行。歩道は例外、歩行者を優先
自転車は道路交通法上「軽車両」であり、車道を通行するのが原則です。車道では左端に寄って通行してください。
- 交差点では信号と一時停止を守って、安全確認
信号無視や一時不停止は重大な事故に直結します。必ずルールを守り、左右の安全確認を徹底しましょう。
- 夜間はライトを点灯
無灯火運転は、他者から認識されにくく非常に危険です。
- 飲酒運転は絶対禁止
法改正により、酒気帯び運転も厳罰化されます。アルコールを摂取したら、絶対に自転車に乗ってはいけません。
- ヘルメットを着用
2023年(令和5年)4月1日から、全ての自転車利用者のヘルメット着用が「努力義務」となりました。万一の転倒時に頭部を守るため、命を守る装備として、ヘルメットの着用に努めましょう。
出典:自転車は車のなかま~自転車はルールを守って安全運転~|警察庁、自転車用ヘルメットの着用|警視庁
以上の五原則を守ったとしても、自転車自体に不備があれば安全は確保できません。そこで、特に次の点に気をつけて、定期的な点検整備を行いましょう。
- ブレーキ
前後輪とも、しっかり効くか確認しましょう。
- タイヤ
空気が十分に入っているか、溝がすり減っていないか確認が必要です。
- ライト
夜間に点灯するか、バッテリーや電球は切れていないか確認します。
- ベル(警音器)
適切に鳴るか確認しましょう。
- 反射材
汚れたり、破損したりしていないか確認します。
また、歪みやサビはないか、ねじや部品の取り付けに緩みはないか、チェーンは滑らかに回るかといったことも定期的に確認しておきましょう。
最後に、万一の事故の備えとして自転車保険への加入もおすすめです。どれだけ注意していても、事故の被害者や加害者になってしまう可能性はゼロではありません。自転車事故で高額な賠償責任を負うケースも増えています。このリスクに備えるため、自転車損害賠償保険などへの加入が非常に重要です。
東京都、埼玉県、大阪府、京都府など、多くの自治体では、条例によって自転車利用者(未成年者の場合は保護者)の保険加入が「義務」または「努力義務」とされています。個人賠償責任保険も含め、ご自身の加入状況を一度確認し、未加入の場合は速やかに加入を検討しましょう。
出典:自転車損害賠償責任保険等への加入促進について|国土交通省
まとめ
2026年までに順次施行される改正道路交通法は、自転車利用に大きな影響を与えます。「反則金制度(青切符)」が導入されることにより、自転車の交通違反に対する取り締まりは、これまで以上に厳格になることが予想されます。
ただし、この改正は違反者を罰するためだけではなく、利用者自身の安全を守り、他者と道路を安全に共有するための社会的な要請です。
罰則が強化されたからルールを守るのではなく、自分自身の命、そして他人の命と生活を守るために、日頃から安全運転を心がけ、交通ルールを遵守する姿勢が何よりも重要です。
※本記事の情報は2025年12月11日時点のデータに基づくものです。


